こんにちは、はるぼぼ(@harubobo_nikki)です。
昨日(2016年6月24日)、イギリスのEU離脱が決定的になったという驚きのニュースが飛び込んできましたね。
いつも読んでくださっている方から早速「イギリスのEU離脱に対するドイツの反応を知りたい」というリクエストをいただいたので、この話題についてお話したいと思います。
イギリスのEU離脱に対するドイツ国民の反応
まず、ドイツの人々がイギリスのEU離脱を想定していたかどうかについてです。
ドイツ国民はイギリスのEU離脱はあり得ることだとは考えていましたが、実際には起こらない(というか起こってほしくない)と思っていたようです。
やはりヨーロッパの最重要国の一つであるイギリスがEUの加盟国であることは経済的なメリットのみならず、「ヨーロッパ共同体」の理想を実現するうえでも大きな意味合いがありました。
イギリスは以前からEUから距離を置く姿勢を見せていましたが、「まさか本当に離脱することになるとは!」とイギリスのEU離脱をドイツ人は驚きをもって受け止めており、同時に残念 にも感じています。
イギリスのEU離脱をドイツメディアはどう報じたか
今回の決定について、ドイツメディアがどのように報じているのかを一部抜粋してご紹介しましょう。以下は中道~保守の姿勢を見せているドイツの日刊新聞、「Die Welt(世界)」の見出しです。
「EUの価値は突然半分になった」
もちろんEUにおいてイギリスが経済的に半分を占めていたわけではありません。
しかし、イギリスがもつインド、オーストラリア、カナダといった国々との良好な外交関係や影響力はEUが持ち合わせていないもので、それを失うことはEUにとって大きな損失です。
また、イギリスという強力な国がEUのメンバーであることは「ヨーロッパは一つ」という理想を実現するうえで象徴的な意味がありました。
今回のイギリスのEU離脱は、その理念が大きく揺らぐ可能性をはらんでいます。
「EU加盟国の全員が12884ユーロを失う」
この金額は、イギリスがEUに加盟していたことでEU加盟国の国民一人ひとりが直接的・間接的に得ていたとされる利益です。
これはイギリスがEUに拠出していた負担金の喪失や、共通通貨ユーロの価値下落、EU市場の縮小などから総合的に算出されたものです。
「イギリスは崩壊する」
イギリスのEU離脱が決定的になった後イギリスの通貨ポンドが急落したことが象徴していますが、「イギリスが難題に直面する」という見方です。
EU離脱後はイギリスとEU加盟国との貿易や人材交流に関税やビザといった障壁が生じるようになるでしょう。(どのような条件になるのかは未定ですが)
それによりイギリスが経済的なダメージを被るのではないかと考えられています。
さらにはEU残留を希望した市民が多かったスコットランドや北アイルランドではイギリスからの独立を求める声が再燃しており、連合国家イギリス分裂の懸念が高まっているのです。
今後他の国もEU離脱を考える?ドイツは?
ドイツにおいてはどのような立場をとる政治家であれ「EU離脱」を声高に叫ぶ人は今のところいません。
ドイツではEU組織の官僚主義や非能率性、加盟国への干渉が問題視されており、EUの組織改革の必要性を訴える声はあるものの、あくまでも組織の問題という考えが中心で国民レベルでも「EUを離脱すべき」という声はほどんどありません。
EUの中で「一人勝ち」とも言われるほど経済的なメリットを享受してきたドイツならそれも当然といえるかもしれません。
しかし、EUの主要国の一つであるフランスについては離脱の可能性がささやかれています。
イギリスほどではありませんが、近年フランス国内ではEUに対する不満の声が高まっており、EU離脱がイギリスにどのような影響をもたらすかを見つつ、イギリスの動向によってはフランスも離脱を考える可能性がないとはいえません。
EU市民への影響
これまであまり日本人にとってはイメージしにくいマクロな視点から話をしてきたので、ここでもっと身近な視点から見てみたいと思います。
私がEU離脱のニュースを知ったのは実はパリでのこと。
5泊のパリ滞在を終えドイツに戻るバスを待っていたとき、同じバスに乗るルーマニア人男性から聞いたのです。
“Did you know what happend this morning?(今朝何があったか知ってる?)”と聞かれましたが、パリで毎日朝から晩まで出歩いていた私はそんな国民投票が行われていたことすら全く知らず、まさに「寝耳に水」でした。
自分自身が「EU市民」であるルーマニア人の彼にとってはまさに自分事であり、ビッグニュース。印象に残ったのは、彼が「イギリスがEUを離脱したら僕たちはビザが必要になる」と言ったことです。
「非EU人」である私にとってはイギリスがEUに加盟していようがいまいが自分の待遇は変わりませんが、「これがEU市民の視点なんだなぁ!」と感心しました。
2007年にEUに加盟したルーマニアはEU最貧国の一つですが、EU市民であることで、イギリスやドイツという豊かな国に自由に滞在して働くことができるのです。
彼は「ルーマニアでは何でもドイツの3分の1の値段だ」と言っていたので、イギリスやドイツで得る給料はルーマニアとは比べものにならないはずです。
ルーマニア人に限った話ではありませんが、これまでEU人として自由にイギリスで滞在・労働ができた外国人がイギリスで長期滞在や仕事をするにはビザが必要になるでしょう。
反対にドイツなどEU他国で長期滞在・仕事をしているイギリス人の処遇をどうするかといった問題も出てきます。
イギリスのEU離脱の時期や条件は今後話し合われるのでそういった人々にただちに影響が出るわけではありませんが、イギリスのEU離脱にかかわる難題の一つといえます。
イギリスのEU離脱への個人的感想
最後に、今回の件に対する私の個人的感想を述べておきたいと思います。
そのニュースを聞いてまず思ったのは「ついにEUの崩壊が現実のものになったか」ということでした。
ギリシャ危機や難民問題ですでにヨーロッパは分裂の危機にあると感じていましたが、イギリスがEU離脱を決めたことでますますそれが色濃くなった気がします。
今回のイギリス国民の判断がどう出るかは現時点では誰にもわかりませんが、経済力も利害も異なる国々を共通のEU法で規制し、共通通貨を利用(ユーロ導入は25ヵ国)することはあまりにも理想主義的ではないかと以前から思っていました。
ユーロ導入国の経済水準が同等であれば話はわかりますが、ギリシャやコソボといった経済基盤の弱い国も含まれていて、各国の経済レベルに見合った経済政策がとれません。(イギ リスはユーロ未導入なのでこの点は関係ありませんが)
また共通法を導入すれば各国の主権と対立するのは目に見えていますし、「ヨーロッパは一つ」という理念を掲げてはいても実際には各国が自国の利益を守ろうとする動きが目立ちます。
もともとは「ヨーロッパで二度と戦争を起こさない」というところから始まったヨーロッパ共同体ですが、あまりにも急速に深化しすぎたのではないでしょうか。
モノや人の行き来の自由化は経済活性化に有効だとは思いますが、急激にヨーロッパ統合を進めようとした現在のEUのありかたは「一線を越えてしまった」ように感じます。
数年後には「あの時イギリス国民は賢い選択をした」と言われるようになるのではないかという気がしています。
とはいえ、いったん加盟した後の離脱は相応の痛みを伴うので、結局はハナから加盟しなかったスイスが一番賢かったということになるのかもしれません。