今回お伝えするのは、「日本とは正反対」といっても過言ではない「ドイツの食文化」について。
地理的・歴史的な背景から、ドイツ人の食生活や食習慣は、日本人からすると驚くことも多いです。日本人とドイツ人では味の好みが違うだけでなく、体質も異なるので、ドイツ式の食事は(特に長期化すると)辛いと感じる日本人も少なくありません。
「ドイツの食文化」とはいったいどのようなものなのか、その特徴を10のポイントにまとめました。
温かい食事は一日一回
ドイツでは「温かい食事は一日一回」というのが伝統です。日本では、伝統的には食事といえば温かいのが普通で「温かい食事」「冷たい食事」と区別することすらほとんどありませんが、ドイツでは違います。
ドイツでは、温かい食事、つまり調理された食事は一日一回だけ、昼食として食べるのが伝統なのです。
朝はパンやシリアルなどの冷たい食事をして、昼は肉料理などの温かい食事、そして夜はまたパンにハムやチーズをはさんだサンドイッチなど、冷たい食事で済まるといった具合です。
ドイツでは、昔は平日でも昼は一旦家に帰って、家族みんなで食卓を囲むことができたからです。もちろん、今では昼食のために一旦家に帰る人はめったにいないので、昼食はそれぞれ外出先で食べるのが普通です。
それでも、昼食に温かいものを食べたら夜は冷たいもので軽く済ませるという習慣はいまだに残っていて、一日に何度も温かい食事を摂らないというドイツ人は多いです。
ただし、家庭によって、また個人によっても事情は異なり、現代のドイツ人がみんな一日一回しか温かい食事を摂らないというわけではありません。
一日のうち最も大切なのは昼食
「一日に一回、昼食だけ温かい食事を摂る」という伝統からもわかるように、ドイツ人にとって一日のうちで最も大切な食事は昼食です。
日本人なら、「昼は多少不本意な食事でも我慢できるけど、夜はゆっくり美味しいものを食べたい」と考える人が多いので、反対といえますね。
ドイツ人が昼食に重点を置くおもな理由は、「その後寝てしまう夜よりも、これから活動するという昼にしっかり食べたほうがいい」というもの。ドイツ人らしく、いたって合理的ですね。
「夜寝る前にたくさん食べると眠れない」といって、軽めの夕食を意識するドイツ人も少なくありません。
普段の食事には手間をかけない
「温かい食事は一日一回」という伝統からもわかるように、特別な機会は別として、ドイツ人は普段の食事に手間をかけません。
なかには料理が好きで普段から食事に凝るという人もいなくはありませんが、ドイツでは少数派です。多くのドイツ人は、食事の時間は後片付けに時間をかけるよりは、家をキレイに保つことや、リラックスタイムを確保することを重視します。
ドイツ人にインテリア雑誌から飛び出してきたような美しい家が多いのには、こういった事情も関係しているのです。
料理の見た目の美しさは気にしない
みなさんも、ドイツ料理に対して「質実剛健」「豪快」などのイメージがあると思いますが、その通り、ドイツ料理は見た目のインパクトはあっても、美しさにはあまりこだわりません。
陸続きの隣国でありながら、料理の味だけでなく見た目にもこだわるフランスやイタリアとは、ずいぶん様子が違います。
ドイツのレストランで肉料理を頼んだら、肉にナイフが刺さって出てくるなんてこともあり、日本人にとってはちょっとした衝撃です。
ドイツ料理って、男性的というか野性的というか・・・「食べてしまえば同じ」という意味では、見た目にこだわらないのはある意味合理的な気もします。
一人一皿が基本
料理の見た目の美しさにこだわらないこととも関連しますが、ドイツの食卓、特に家庭では「一人一皿」が基本です。
日本の家庭では、お茶碗や汁椀も含めると、一人5枚や6枚もの食器が使われることも珍しくありませんが、それはドイツ人にとっては驚くべきこと。ドイツでは、一人一枚ずつ大きなお皿を用意して、そのお皿にメインと付け合わせを一緒にのせます。
たとえば、メインが煮込んだお肉だったとしたら、付け合わせにジャガイモとザワークラウトなどを添えるといった具合です。(レストランでは別皿でサラダが出てくることもあります)
ドイツでは、普段の料理は手間がかからないメニューが多いですし、お皿も一人一枚しか使わないとなれば後片付けもラクラク。
しかも、ドイツの家庭では、料理に使った鍋やフライパンをそのままドンと食卓に置いて、そこからみんなで取り分けたりもします。もう慣れましたが、初めてダーリンの実家でご飯を食べたときにはその豪快さにびっくりしました。
ドイツ料理の中心は肉とじゃがいも
ドイツは北のごく一部しか海に面していませんし、特に北部は土地がやせていて、日本のように海産物が豊富なわけでもなければ、四季折々のバラエティ豊かな食材に恵まれているわけでもありませんでした。
もちろん、今ではドイツでも諸外国からの輸入でさまざまな食材が手に入るようにはなっていますが、食材のバリエーションが限られていた時代の名残はそう簡単に消えるわけではなく、伝統的なドイツ料理は食材のバリエーションが少ないです。
伝統的ドイツ料理で特に多用されるのが、肉とじゃがいも。サラダやパスタなどが添えられたリ、マッシュルームなどが使われたりすることもありますが、ドイツ料理のコアは肉とじゃがいもです。
ドイツ人にとってのじゃがいもは、日本人にとっての米に近く、2キロ、3キロ、5キロなど、キロ単位でじゃがいもを買うのが当たり前。肉料理の付け合わせにする以外にも、スープにしたり、サラダにしたり、団子にしたりと、ドイツではさまざまなじゃがいも料理に出会えます。
保存食文化の影響で味付けは濃いめ
昔のドイツは新鮮な食材に乏しかったため、ソーセージ、ハム、ザワークラウトをはじめとする保存食文化が発達しました。
保存がきくようにするためには、当然塩気を多くしなければなりません。そんな影響もあって、ドイツ料理は味付けが濃いめ。日本人にとっては「しょっぱい!」と感じてしまうことも少なくありません。
ドイツ料理に疲れてしまう日本人が多いのは、肉やじゃがいもといった重たい食材を多用するというだけでなく、味付けが濃いというのも関係しています。
私自身、ドイツで暮らすうちに濃い味付けに慣れて、自分が作る料理の味付けも濃くなってきているのではないかという気がします。
食材のバリエーションは少ないが、奥行きはすごい
さきほどお話したように、ドイツ料理は日本料理などに比べると食材のバリエーションは少ないです。そのかわり、中心となる食材や食べ物それぞれの奥行はすごいんです。
たとえば、「ドイツ」と聞いて多くの人が思い浮かべるソーセージは1500種類以上あるといいますし、パンも小さいものを含めれば1500種類、じゃがいもも約130種類あるといわれています。
食材の幅は狭いけれど奥行きはすごい、それがドイツの食文化です。
食事にお金をかけることをよしとしない
日本人は、外食など食事にお金をかけることが好きですよね。「お金がないからあまり外食に行けない」という人でも、「お金がもっとあったら外食の回数を増やしたい」あるいは「もっとランクの高いレストランに行きたい」と内心思っている人も少なくないのではないでしょうか。
ところが、質素倹約を美徳とするドイツでは、一般に食事に必要以上にお金をかけることをよしとしないところがあります。
お金があるとかお金がないとかに関係なく、慎ましい食事をすることが望ましいとされているふしがあります。そのため、ドイツには高級レストランの割合がフランスや日本に比べるとずっと少ない気がします。
ちなみに、日本におけるエンゲル係数(家計支出における食費の割合)は26パーセント、ドイツは18パーセント程度です。(2015年 出典:社会実情データ図録)
「エンゲル係数が低い=非グルメ」と単純にはいえませんが、日本人に比べドイツ人がどのくらい食にお金をかけないのか、ひとつの参考にはなると思います。
日本在住のドイツ人禅僧ネルケ無方さんは著書「曲げないドイツ人 決めない日本人」で、ドイツ人の食生活をこう評しています。
日本から見たら非常に貧しい食卓です。たぶん日本の刑務所のほうがおいしい食事が出ているのではないかと思います。
「刑務所!?」と思いましたが、考えてみればあながち極端な例ではないような気がします。
「食事にこだわらない」ことがこだわり?
ドイツに住むようになって、私はずっと「ドイツ人は食にこだわらない」と思っていました。日本人がドイツ人の普段の食生活を見ると、「なんて食事にこだわりのない人たちなんだろう」と感じると思います。
でも、最近ではむしろ「食事にこだわらないこと」がドイツ人のこだわりなのではないかと思うようになりつつあります。
食事にこだわる日本人から見ると、ドイツ人は食事にこだわりがないように見えますが、歴史的・地理的背景もあったとはいえ、ドイツ人は質素な食生活を自ら選んでいるのです。
そしてその背景には「食事に手間と時間をかけるくらいなら、ほかのことに使いたい」といった願望が潜んでいます。それは日本人とはまた違った意味での「ドイツ人の食へのこだわり」なのではないかと感じています。
おわりに
ドイツの食文化をひとことで表すと、質素で合理的。これに尽きます。
今回お伝えしたことは一般論に過ぎませんし、ドイツ人だってドイツ料理ばかりを食べているわけではなく、イタリア料理やアジア料理などを楽しむ人も多いです。
ドイツの食文化のすべてをここで語りきることはできていませんが、それでも、ドイツに行ったことがない人にも、「ドイツ人の食に関する価値観は日本人と大きく違う」ということがわかっていただけたのではないでしょうか。
ドイツの食文化の特徴は、ドイツのファッションの特徴と似ていて、なんだか面白いです。「日本とドイツが似てる」なんていわれることもありますが、食とファッションに関していえばむしろ反対。
どちらがいいとか悪いとかではなくて、とにかく違うのです。とはいえ、私は日本人ですし、体質的にドイツの食事があまり合わないので、個人的にはやっぱり日本の食のほうが好きですが・・・