以前執筆した「旅を仕事に!現役トラベルライターが教える、旅行ライターになる方法」は、おかげさまで多くの方々に読んでいただきました。
『「旅を仕事に」なんてできるはずがない』と思っていた私が、いざトラベルライターに挑戦してみたら、旅を仕事にできてしまった!この記事は、その経験を元に、ゼロからトラベルライターを目指す人を応援したいという気持ちから書いたものです。
しかし、トラベルライターとして3年半ほど活動し、トラベルライターになるメリットもデメリットも一通り経験した今、今度はトラベルライターの厳しい現実を伝える必要があると感じるようになりました。
「トラベルライターは厳しいからやめたほうがいいよ」といいたいのではなく、これからトラベルライターになろうとする人には、現実をわかったうえでチャレンジしてほしいと思うのです。そのほうが、いざ始めた後に後悔することが少ないでしょうから。
ということで、トラベルライターになる前に知っておいてほしいこと、考えてみてほしいことをお話します。
トラベルライター≒フリーランサー
トラベルライターを目指すなら、まず認識しておかなければならないのが、「トラベルライター≒フリーランサー」であるということ。
特定のメディアに所属して、会社員として活動しているトラベルライターも存在しますが、あくまでも一握り。ほとんどのトラベルライターは、業務委託という形でフリーランサーとして活動しています。
私自身も「フリーランサーになろう!」と思ったことはありませんが、トラベルライターを始めた結果、フリーランサーに。フリーランサーという働き方は、収入が不安定なうえ、相当な自律心を求められますし、確定申告などの税務も自分自身でこなさなければなりません。しかも社会的信用度が低いので、賃貸契約などにも苦労する可能性があります。
トラベルライターになるということは、十中八九、そういった状況を受け入れなければならないことを意味するのです。
期間限定か長期的か
「トラベルライターになりたい」「旅行記事を書いてお金がもらえるなんて最高」と考える人は少なくないと思いますが、国内外を飛び回って旅行記事を書き続けるのは体力と精神力を要する作業ですし、いくら旅行好きでも繰り返しているうちに飽きてしまうかもしれません。
よほど単価の高い仕事に恵まれない限り、一日に3記事(1記事1000~4000文字)程度を執筆することになる可能性大。フリーランスのライターというのは、アウトプットの多い仕事なんですね。
トラベルライターになろうとするなら、身体が動く限りずっと続けていきたいのか、それとも「3年」「5年」など、一時的なキャリアとして挑戦したいのか、先に考えておくことをおすすめします。後述しますが、トラベルライターという仕事はライフスタイルへの影響が大きいうえ、ライフステージの影響を大きく受けるため、安易に始めるのはリスキーです。
国内中心か海外中心か
一口に「トラベルライター」といっても、さまざまなタイプのライターがいます。海外記事が中心の人もいれば、国内記事が中心の人もいます。もっといえば、国内専門トラベルライターでも、普段は自分の生活圏内のグルメ記事を執筆し、たまに旅行に出かけた際に、遠方の記事を書くという人もいます。
トラベルライターとしての活動フィールドをどこに置くかは、ライフスタイルや経費に大きく影響する重要なポイントです。
これを読んでくださっている方の多くは、国内よりも海外に目が向いているのではないかと想像しますが、日本で最も読まれる旅行・お出かけ系の記事は、首都圏のグルメ記事。日本人でパスポートを持っているのは4人に1人しかいませんから、国内記事に比べ、海外記事のニーズは低いのが現実です。
拠点を持つか持たないか
拠点を持つか持たないか。つまりは、借りるなり買うなりして、家を持つかどうかということです。トラベルライターの中には、特定の場所に家を持ち、そこを拠点として時々旅に出る人もいれば、何年間も旅を続けながら執筆している人もいます。
拠点を持たずに旅をし続ければ、家賃がかかりませんし、拠点に戻ってくるための交通費もかからないので、トラベルライターとしてはある意味効率的なのですが、何ヵ月も何年も旅を続けるというのは、誰にでもできることではありません。旅をし続けると体力的にも精神的にも疲れてしまいますし、何を見ても新鮮味がなくなってきてマンネリ化してしまうことはよくあります。
「無期限に旅しながら記事を書く」なんていえば、聞こえはいいですし、憧れる人も少なくないでしょう。しかし実際には、旅好きでも根無し草のように放浪を続けるのが性に合っている人はごくわずかで、ほとんどの人は途中で疲弊してしまうはずです。
ちなみに、私は最長で連続5か月間旅をしたことがありますが、それが限界でした。いくら旅が好きでも、2年も3年も旅をし続けたいとは思いません。
結婚するかしないか
結婚するかしないかなんて、必ずしも事前に計画できることではありませんが、トラベルライターになろうと考えるなら、いずれ結婚したいのか、したくないのか、ビジョンを持っておくことは大切です。
トラベルライターという仕事は国内外を飛び回る仕事ですから、まともにやっていれば月のうち半分も家にいないということはよくあります。そんなライフスタイルをパートナーが理解してくれるのか。理解してくれなかったらどちらを優先するのか・・・トラベルライターは、そんなジレンマに直面する可能性もあるということです。
女性の場合、結婚するかしないか以上に重大なのが、子供を持つかどうかです。なぜなら、妊娠した瞬間にトラベルライターとして本格的に活動することはできなくなるから。出産後もしばらくは子供中心の生活が待っているので、思うように旅行には出かけられません。
仮に子供を連れて旅行をするにしても、子供のペースに合わせなければなりませんから、一人旅のように、予定を詰め込んでガンガン観光地やレストラン等を取材するのは難しいでしょう。
大きく稼ぐのは難しい
ごく一部の売れっ子を除き、一般的にはトラベルライターで大きく稼ぐのは難しいといえます。
経済面だけで見れば、ほとんどの人はどこかの企業で正社員として働いたほうが楽に暮らせるでしょう。それどころか、原稿料だけではまともに食べていけず、アルバイトや派遣の仕事などで収入を補填しているトラベルライターがいるのが現実です。
私は旅行記事の原稿料だけで生活している専業トラベルライターですが、大企業で正社員総合職として働いていた頃に比べ、収入が減ったことは否定できません。それでも、贅沢をしなければ食べていけているので、トラベルライターとしてはラッキーなほうでしょう。
SNSでは、ラクして大金を稼いでいる(ように見える)海外ノマドを見かけますが、現実はそう甘くはないのです。私の経験上、年収300~400円程度ならなんとかなる気がしますが、フリーライターの平均年収は259万円ですからフリーランスのトラベルライターとして大きく稼ぐことはそう簡単ではありません。。(出典「はたらいく」)
好条件の仕事が次々と舞い込んでくるようなトラベルライターは、写真撮影技術がプロのカメラマン並みであったり、容姿がアイドル並みであったり、日本人の世界一周が珍しかった時代に世界一周を経験していたり、カリスマ性があったり(自己プロデュースに優れていたり)します。本を出版したりテレビに出演したりするなど、トラベルライターとして大きく成功している人は、たいていそれらのうち複数の要素を兼ね備えていますね。
一昔前であれば、「ほかの人がやっていない」というだけで先行者利益がありましたが、今どき世界一周もノマドもまったく珍しくないので、これから参入しようとする人には厳しい競争が待っていることを覚悟しておいたほうがいいです。
トラベルライターは経費がかかる
フリーランスといってもさまざまですが、トラベルライターは特に経費がかかる仕事のひとつです。
なかには、旅行期間に対し報酬を払ってくれるクライアントも存在しますが、そんなクライアントを獲得できるトラベルライターは、ごくごく一握り。ほとんどは、旅行費用をクライアントが負担してくれれば御の字で、現実には旅行費用を全額自己負担しているトラベルライターも少なくありません。
そう、トラベルライターには、「仕事をするためには旅行をしなければならないけれど、旅をすればするほど経費がかかり、執筆に割ける時間が減る」というジレンマがついてまわるのです。
日本を拠点にする場合、海外記事を中心に執筆するトラベルライターは特に経費がかかります。そもそも大きく稼ぐのは難しいうえに、経費率が高いので、旅費をすべて自己負担すれば、赤字になってしまう可能性も十分あります。
さきほど「年収300~400万ならなんとかなる」というような話をしましたが、もしそのなかから旅費を全額自己負担しなければならないとしたら・・・手元に残るお金が多くないことは想像できますね。
地方在住ライターは不利
私がトラベルライターになったのはドイツに住んでいる頃でしたが、日本に帰ってきて、「地方在住のトラベルライターは不利だ」ということを実感しています。
それは、ほとんどのプレスツアーが東京発着だから。トラベルライターが自己負担なしで旅行をするには、おもにクライアント(旅行メディア等)に負担してもらう方法と、観光局や自治体、ホテル等が主催するプレスツアー(通常は無料)に参加する方法があります。
ここで問題になってくるのが、大半のプレスツアーが東京発着であること。海外はもちろん、国内のプレスツアーもそうで、日本に帰国してから、つくづく「日本の中心は東京なんだな」と実感しています。
もちろん、地方から東京発着のプレスツアーに参加することはできるのですが、たいていの場合東京までの交通費は自己負担になります。東京までの往復交通費に加え、前泊や後泊が必要になることも多いので、上京の経費は馬鹿になりませんし、時間もかかるんですよね・・・
東京に住んでいれば、トラベルライターをしつつ旅行メディアを運営する会社の仕事を手伝うという働き方ができる可能性も十分ありますが、地方ではメディアの拠点自体が少ないのでそういったチャンスはほとんどありません。
日本の地方を拠点にトラベルライターとして活動しようとする場合、さまざまなチャンスが制限されることを知っておいたほうがいいです。
なるのは簡単でも続けるのは難しい
これまでの話を総括すると、「トラベルライターは、なるのは簡単でも続けるのは難しい」。これに尽きます。
トラベルライターになるためには何の資格も必要ありませんし、作家ほどの文章力や独創性を求められるわけではないので、参入障壁は低いといえます。
ですが、トラベルライターとしての活動だけで十分な収入を維持し続けられるかといえば、話は別。おそらく、ライター活動をしていても、専業トラベルライターとして、旅行関連記事の原稿料だけで生活費を賄えている人は少数派ではないかと思います。
トラベルライターはとにかく経費がかかるので、より少ない投資で記事化できる別のテーマでも記事を書いたり、アルバイトや派遣などで収入を補ったりしている人が実態です。
自分なりの続けるための戦略を
厳しい現実を理解したうえで、それでもトラベルライターになろうという気概のある方は、自分なりの続けるための戦略を持つといいでしょう。
例えば、「海外記事だけでは経費がかかりすぎて続けられないから、近場のグルメ記事も執筆しよう」などです。これは、東京・大阪などの都市部や京都などの観光地では、現実的な選択肢です。
これを読んで「専業トラベルライターはとても無理だ」と感じたら、会社員として働きつつ、週末に執筆活動を行う会社員トラベルライターという選択肢もあります。その場合は「リーマントラベラー」として週末旅行を楽しみ、ライター・作家としても活動されている東松寛文さんの著書「サラリーマン2.0 : 週末だけで世界一周」が参考になりそうです。
大黒柱として稼いでくれるパートナーがいるから、自分はそれほど大金を稼ぐ必要がないというのなら、金銭的なプレッシャーなしにトラベルライターを続けるというのもありです。
おわりに
人それぞれ生き方や価値観、置かれている環境が違うので、トラベルライターとしての在り方に「正解」はありません。いきなりフリーランスではなく、まずは他の仕事と並行して始め、軌道に乗ったら独立することを考えるのも賢い方法だと思います。
どれくらいの期間続けたいのか、どのくらいの収入を得る必要があるのか、「トラベルライターではやっていけない」と悟ったときにキャリアの転換が可能なのか(ほかに売りになる経験・スキルはあるか)・・・
そういったことを踏まえたうえで、自分に合った形でトラベルライターとしてのキャリアをスタートさせるといいのではないかと思います。これを読んだうえで、「それでもトラベルライターになりたい!」と思う方は、相当な覚悟をお持ちでしょうから、ぜひ自分なりのトラベルライターとしての在り方を見つけて、夢を叶えてほしいと思います。