最近、「新卒フリーランス」という言葉を耳にする機会が増えました。「新卒フリーランス」とは、大学を卒業後、企業等に就職することなく、すぐにフリーランスとして活動を始めることです。
時々、「新卒フリーランスはありかなしか」といった議論を目にするのですが、会社員とフリーランスの両方を経験をしている私の立場から言わせてもらえば、「一部の例外を除き、新卒フリーランスは絶対なし!」
なぜなら、新卒フリーランスはきわめてリスクの高い選択だから。私のフリーランス体験を踏まえ、そう考える理由をお伝えしていきたいと思います。
簡単に自己紹介
まずは簡単に自己紹介をさせてください。この記事で自分について長々語るつもりはありませんが、この記事で書いていることをちゃんとお伝えするには、私自身のバックグラウンドを知っていただいたほうがいいと思うからです。
私は現在フリーランスライター&広報として活動しています。現在に至るまでの簡単な経歴は下記の通り。
- 新卒で大手の百貨店に入社して、店頭での接客販売・本社への営業企画を経験(6年間)
- ドイツ移住を機に、フリーランスのトラベルライターに転身(4年間)
- 日本に帰国後、ネット広告系のベンチャーで広報・人事担当として勤務(1年半)
- フリーランスのライター・広報として再び独立(2021年1月~)
このように会社員(正社員)を2度経験し、日本の就活も知っていますし、フリーランス生活も2度目なのでフリーランスの実態もわかっています。そこで、現役フリーランスの立場からフリーランスも甘くないこと、就職にもメリットが大きいことをお伝えしたいと思います。
「新卒フリーランス」に関するQ&Aから
今回新卒フリーランスについて書こうと思ったきっかけは、たまたまネットの掲示板で新卒フリーランスになることを考えている大学生の投稿を見たことがきっかけでした。
その内容は、「就活が思い通りにいかず、第一志望の企業から内定をもらうことができませんでした。それ以外の企業から内定を得ているのですが、第一志望の会社で働けないなら、いっそ新卒フリーランスになったほうがいいのではないかと考えています。」という趣旨でした。
それに対して何人もの人が、「あり」「なし」のコメントを返しているわけですが、その返答の内容がなかなか両極端。大きくは、「新卒ブランドは人生一度きり。まずは就職すべき」という新卒フリーランス反対派と、「自分の人生なのだから、好きなことをやって自由に生きればいい。」という新卒フリーランス肯定派に分かれていました。
「好きなことをやって自由に生きればいい」と新卒フリーランスを肯定する人たちのコメントを見て、「冗談じゃない!」と思いましたね。
そもそもネットの掲示板で人生の一大事を相談すること自体どうかと思いますが、「若者のチャレンジを応援したい」と新卒フリーランスへの挑戦を肯定するような人々は、おそらくフリーランスの現実をわかっていません。それどころか、年配の人であれば、今の大学生が置かれている状況すらわかっていない可能性もあります。
新卒で正社員として就職し、6年後にフリーランスになった私から見れば、新卒フリーランスはほとんどの人にとってきわめて非合理的な選択。ちょっと就活がうまくいかなかったからといって、「早まらないで!」と言いたいです。
新卒はスキルがない
冒頭で、「一部の例外を除いて、新卒フリーランスは絶対になし」だと言いました。一部の例外とは、もともと新卒フリーランスに照準を当て、在学中からそのための準備を整え、すぐにフリーランスとして戦えるスキルがある人。
「もともと正社員として就職する予定で、就活が思うようにいかなかった」という状況であれば、当然そのような準備はしていないでしょうから、新卒フリーランスになったとしても、すぐに戦える武器がありません。
そんな状態でいきなりフリーランスになるのがいかに無謀か、ちょっと考えればわかりますよね。
フリーランスは「自由」ではない
新卒フリーランスになることに対して、「一度きりの人生だから、好きなことをやって自由に生きればいい」と言う人は、フリーランスの本質を理解していません。
「フリー」という単語がつくので、「自由」というイメージを持たれがちですが、フリーランスは、あくまでもクライアントありき。「一度きりの人生だから、好きなことをやる」のは賛成ですが、自分の仕事に対価を払ってくれるクライアントがいなければ、フリーランスは成立しません。
「就活が思うようにいかなかったので、新卒フリーランスになりました」という若者に、仕事を頼みたいと思いますか?クライアントの立場で考えてみればわかることですが、就活から逃げるようにしてフリーランスになっても、相応の報酬が支払われる仕事にはありつけません。
新卒フリーランスの選択肢を挙げる学生のなかには、どうもフリーランスの仕事をはき違えている人がいるような気がしてなりません。
誰でもできる仕事は単価が低い
もともと予定せず新卒でフリーランスになった場合、webライターなど特別なスキルや仕事を必要としない仕事にチャレンジする人が多いのではないでしょうか。
確かに、ライターの仕事は千差万別であり、普通にわかりやすい日本語が書ければ受けられる程度の案件もあります。しかし、当然のことながら誰にでもできるような仕事は単価が低いんですね。webライターであれば、600文字で300円などという案件もザラにあります。
もちろん、webライターに限らず、下積みを重ねて単価の高い仕事にステップアップしていくことは可能ですが、正社員並みの収入を得るのに何年もの準備期間が必要になるかもしれませんし、何年かけても低単価から抜け出せる保証はありません。
フリーランスは、弱肉強食の厳しい世界。抜きんでたスキルがない限り、正社員をやっていたほうがよっぽど稼げるという人がほとんどでしょう。フリーランスになると、健康保険は全額自己負担ですが、会社員の場合半額会社負担。会社員には給与以外のメリットもたくさんあるのです。
新卒フリーランスは人脈がない
学生起業や学生団体の代表などをしていた人は別でしょうが、一般的な新卒にはビジネスに活用できる人脈がありません。この点も、フリーランス活動をするうえでは大きなネックになります。
なぜなら、稼げるフリーランスになるためには、スキルだけではなく人脈も重要だから。
「誰でもできる仕事は単価が低い」という話をしましたが、それと同様、クラウドソーシングでオープンに募集している案件も単価が低い傾向にあります。最近はコロナ禍もあって自宅で仕事をしたいと考える人がさらに増え、低単価の案件であっても数人で取り合うような状況が続いています。
低単価の案件から脱却するのを助けてくれるのが人脈です。クラウドソーシングなど誰でも見られる状態で募集している案件というのは、よほどスキルや専門知識が問われる案件でない限り、単価が低いことが多いですが、クローズドの案件は、仕事内容はそれほど変わらなくても単価が一気に上がることが多いのです。
会社員をやっていると、自然に社内外の人と知り合うことができ、色々な人脈ができます。一度会社員を経てフリーランスになると、会社員時代に知り合った人が仕事を依頼してくれたり、案件を紹介してくれたりします。
しかし、新卒フリーランスにはほとんどの場合このような人脈がないので、どうしても不利になってしまいます。
フリーランスは無料で学べる場が少ない
これは非常に重要なことなのですが、フリーランスは無料で学べる機会がほとんどありません。新たな知識を付けたいと、本を買ったり、セミナーを受講したり、通信教育を受けたり・・・そういった勉強は基本的にすべて自己負担。
しかし正社員であれば、新卒には手厚い研修がありますし、業務に関連があれば書籍の購入や通信教育の受講にも補助が出るケースが多いです。
そもそも、新卒採用は「ポテンシャル採用」と言われるように、企業も現時点では大したビジネススキルがないことはわかっていながら、教育して伸ばす前提で新卒を採用します。
それが何を意味するか。正社員就職すれば、勉強をしながら安定した給与をもらえるにもかかわらず、新卒フリーランスはその機会を手放すことになってしまうのです。これはものすごい損失ですよ。
フリーランスとして働きながらスキルアップしようにも、新卒フリーランスであれば基本的なビジネススキルがないゆえ、最初はまともな報酬が支払われる仕事は受注できない可能性が高く、単価の低い仕事しか受けられなければ、生活のために朝から晩まで働き続け、勉強のための時間なんて取れないという泥沼に陥る危険性があります。
そうなると、稼げない、スキルも身に付かない、将来が見通せないの三重苦ですよね。
新卒フリーランスは正社員に方向転換しにくい
新卒フリーランスになってみたはいいけど、その現実が厳しすぎでやっていけない・・・そんな場合、多くの人は正社員として就職し直すことを考えるでしょう。
しかし、一度フリーランスになってしまうと、新卒のときには開かれていた企業の門戸が固く閉ざされてしまいます。
新卒フリーランスとして成功する人もなかにはいますが、それは例外と考えるべきで、一般的には「新卒フリーランスなんて無謀だ」と思われています。つまり、企業から見れば、新卒フリーランスになったけどやっぱり正社員として就職したい人というのは、「客観性に欠ける無謀な選択をした、ビジネススキルのない人」なのです。
もちろん、社会で武器になるスキルがある人は別ですが、「就活がうまくいかず、新卒フリーランスになったけれど、その世界はもっと厳しくてやっぱり正社員になることにした」という人には、最初から新卒正社員をとった人に比べて、門戸を開いてくれる企業がぐっと少なくなることを覚悟しておいたほうがいいでしょう。
フリーランスとして成功する人はそもそもスキルが高い
最近は、SNSなどでいかに自分が経済的に成功しているかを発信するフリーランスや個人事業主が増えているので、「フリーランスは自由に稼げる」というイメージがあるのかもしれませんが、フリーランスとして成功できる人のほとんどは、企業でも重宝される人。
フリーランスだから稼げているというよりは、そもそもの人間力やスキルが高いために、フリーランスとしても成功できていると考えるべきです。
「社会性やコミュニケーション力に欠けるけれど、ITスキルは抜群」といった例外も存在しますが、一定の社会性があり、会社で働くことに拒否感がないのなら、会社員の道を選んだほうがずっとラク。
はっきり言って、就活で挫折しそうな人がフリーランスで成功するのは、なんとか就活を頑張り続けて正社員就職するよりも難しいと思います。
仕事なんてやってみないとわからない
フリーランスという働き方が以前より一般的になってきた今、「志望の企業から内定をもらえなかった」という理由で新卒フリーランスを選択肢に挙げる学生も増えています。
でも、結局仕事なんてやってみないとわからないんです。「絶対にここで働きたい!」と思っていた会社に落ちたらショックを受ける気持ちはわかりますが、本当にその会社やその会社の仕事が自分に合っているかなんて、やってみないとわかりません。
第二志望でも第三志望でも、やってみたい気持ちが少しでもあるなら、そこに飛び込んでみればいいですし、現時点で内定がないなら、業界を広げてみる、中小企業を受けてみるなどして、選択肢を広げればいいと思います。
大学生のときは大手にこだわり、実際に大手企業に就職した私ですが、今となっては会社の規模なんてどうでもいいと思うようになりました。大事なのは自分らしく働けるかどうかですし、スキルを磨いて将来転職や独立をするなら、ベンチャーのほうがいいのではないかと思っているほどです。
大学生のときは、「この就活が一生を左右する」と思い詰めてしまいがちですが、「一生の仕事」のつもりで入社しても辞めてしまう人はいくらでもいます。私も、定年まで働くつもりで入社した会社を6年で辞めました。
今どき転職なんて当たり前なので、新卒で就職する会社は「キャリアの第一ステップ」くらいの感覚でもいいと思います。
正社員就職からのフリーランスはあり
これまで、一部の例外を除き、新卒フリーランスはやめたほうがいいという話をしてきました。ですが、フリーランスになること自体を否定しているわけではありません。
一度正社員を経験してからフリーランスになるのは大いに「あり」だと思っています。
もちろん、フリーランスが決してラクな道でないことには変わりはありませんが、一度正社員として働いていれば基本的なビジネススキルが身に付いていますし、もし後にふたたび正社員に戻りたいと思っても、「正社員+フリーランス」の経験があれば、そう苦労せず正社員への転職が叶う可能性が高いです。
私は基本的に、誰かが夢を叶えるためのチャレンジは応援したいと思っています。だから、在学中から覚悟を決めて新卒フリーランスになる準備をしてきた人なら、新卒フリーランスもあり。ですが、中途半端な気持ちでなし崩し的にフリーランスになることは絶対にすすめません。
なし崩し的に新卒フリーランスになるくらいなら、のちにフリーランスになるためのスキルが磨けそうな会社にいったん就職して、働きながら独立のための力を蓄えたほうがよほど合理的で効率的でしょう。
人生思い切ったチャレンジも必要ですが、どうせチャレンジするなら成功しやすい方法や、失敗したときのリスクヘッジがある方法をとったほうがいいと思うのです。