私たちは日独夫婦。ドイツ人ダーリンの学業のため、一時は2人でドイツに住んでいたこともありますが、今は日本で暮らしています。
一般的に、日本人女性とドイツ人男性のカップルは、男性の仕事のことを考えてドイツに住んでいるケースが多い印象です。
にもかかわらず、なぜ私たちはドイツに住み続けることなく日本で暮らすことにしたのか、その決断の理由をお話したいと思います。
ダーリンが日本に住みたがっている
国際結婚カップルがどこに住むかを決めるうえで重要になってくるのが、パートナーの意向。
ドイツ人のダーリンは、私たちが出会った4年前、ワーキングホリデーで日本に滞在しているときから「将来は日本に住みたい」と言っていました。
大学進学のために一度ドイツに戻った後も、その気持ちは冷めるどころかむしろ強くなり、「日本に住みたい」とことあるごとに言っていたのです。
もし、ダーリンが「日本には住めない。ドイツじゃないと嫌だ。」と言っていたとしたら、私は強硬に日本に住みたいと主張することはないでしょう。
私としては、もともとドイツに永住したいと思っていたわけではなく、「永住するならやっぱり日本がいいな」と思っていましたが、「なにがなんでも絶対に日本でないとダメ」というわけでもありませんでした。
ダーリンがドイツに住むことを強く主張したとしたら、おそらく私は夫婦が一緒に暮らすためにドイツに永住することを選ぶはずです。
しかし、ダーリンが「ドイツには住みたくない。日本がいい!」と言っている以上、私たちにとっては日本に住むことが自然な選択だったのです。
日本の「食」は最高である
私がドイツに住むうえで、一番辛かったことのひとつが「食」。
これまでにも何度かお話してきましたが、日本とドイツの食文化には「正反対」といっても過言ではないほどのギャップがあり、食はしばしば日本人がドイツに住むうえでのハードルとなります。
「その国に住むなら、現地の食に慣れればいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、食というのは体質や健康に関わってくるので、単なる慣れの問題や精神論では済みません。たとえば私の場合、ドイツ料理を何食か続けて食べるとすぐに胃もたれを起こします。
ドイツに住む前は、「食事が合わないだろうな」と思いつつ、そこまで深刻には考えていませんが、実際に住んでみると食は思っていた以上に大問題だと気付きました。好き・嫌いの問題ではなく、私は米と醤油と味噌がないと生きていけないということをドイツに来て悟ったのです。
短期間の旅行ならともかく、日常的にドイツ的な食事を摂り続けることはできないので、ドイツでも普段はアジア料理(日本食含む)を自炊していましたが、ドイツでは手に入りづらかったり、高価すぎて買う気にならなかったりする食材や調味料も多いため、レパートリーが限られていました。
さらに、外食をするにしても、ドイツで私が心からおいしいと思える「リーズナブルな」レストランはなかなか見つかりません。
そもそも、ヨーロッパはアジアに比べて外食費が高い傾向にあるので、日本人にとってはドイツのレストランは割高に感じると思います。(それでも、フランスやベルギー、スイスなどに比べると安いほうではありますが)
もちろんドイツにもおいしいものはありますが、ドイツに住んでいたことは、食に関する楽しみが減っていたのは否定できません。
ドイツに住んでいたころ、普段は食への欲求を無意識に抑えつけていましたが、ときどき、本当は食べたいのにドイツではなかなか食べられないもののことを思い出すと気持ちがザワザワしていました。
日本は便利で暮らしやすい
ドイツに住んでみて実感しましたが、日本は本当に便利で快適な国です。利便性という観点からみれば、間違いなく世界トップクラスでしょう。
年中無休や夜遅くまで開いているスーパーがたくさんありますし、コンビニだってあちこちにある。日曜祝日にはスーパーすら休みになるドイツのように、週末や祝前日に焦って買い物に行く必要はありません。
電車はほぼ時間通りに運行しますし、宅配便だって時間通りに届きます。一方、ドイツでは電車の遅れはしょっちゅうですし、宅配便が来るはずの日に来なかったことも多々あります。
特に心配しなくても、誰かがちゃんと取り計らってくれて、物事がスムーズに進むのが日本。万が一、不備やトラブルがあっても、申し出れば迅速かつ丁寧に対応してもらえます。
なんでもかんでも利便性を追求するのがベストだとは思いませんが、物事がスムーズに進む日本の環境に慣れてしまっていると、ドイツでは色々と手強く感じることがありました。「外国人」として暮らすならなおさら。
ドイツに長年住むと、すっかり慣れてしまうのかもしれませんが、私は「できればもういちいち闘いたくない・・・」と思っていたのが正直なところです。
日本のほうが治安が良い
「ドイツはヨーロッパのなかでは治安の良い国」といわれていますが、日本に比べると犯罪率の高い国です。幸い、ドイツで実際に怖い目に遭ったという経験はありませんが、ドイツで外出するときには日本よりも緊張を強いられるのは事実。
2015年の難民危機以降、無差別テロなども発生していますし、身近では、ダーリンが通っていた大学の女子学生が難民申請者によって暴行のうえ犠牲になったという事件もありました。
単純に「難民=危険人物」と考えているわけではありませんが、難民の定義には合わない人でも「私は難民です」とドイツにやってくれば、申請結果が出るまで、数ヵ月間はドイツに滞在することができます。
「自称難民」のなかには、最初から犯罪目的で入国する人物が混ざっている可能性は否定できず、現に事件も発生しているので、ドイツにいるあいだはそれが怖いと感じていました。
とはいえ、日本の場合は地震という「自然のテロ」があるので、日本にいれば絶対に安全というわけでもないのですが・・・
日本のほうが自分の価値観や嗜好に合う
価値観やライフスタイル、人前での振る舞い方など、私にとっては日本の社会のほうがドイツの社会よりもしっくりきます。
ブラックな労働環境や、他人と同じことをしないと批判されやすいなど、日本社会の特性のなかには私にはなじまないものもありますが、それでも全体としては日本のほうが快適なのです。
ここでいう「価値観や嗜好」にはさまざまな要素がありますが、例えば日本のほうが欲しいと思う服が圧倒的に多いですし、町で見かけた人に対して「あの人おしゃれで素敵!」と思う機会も多いです。
結局、日本で生まれ育った私は、日本人としてのミーハーな要素を捨てきれないようです。そして、ミーハーな人間が、ミーハーとは対極にあるといっても過言ではないドイツで暮らすのは、かなりの忍耐や諦めが必要です。
休日の過ごし方をとっても、ドイツ流にはなかなかなじめませんでした。もちろんドイツ人みんながそうというわけではありませんが、ドイツ人の休日(特に日曜日)の過ごし方は散歩やハイキング。
私は街歩きは大好きなのですが、これといった目的もなく森や住宅街をただ歩くことには興味がありません。
散歩やハイキングは、健康的でお金もかからない最高の余暇の過ごし方だとは思いますが、残念なことに心からそれが楽しいとは感じられないのです。自分がアウトドアな人間であったら、ドイツの休日をもっと楽しめたのでしょうが・・・
このテーマには本当にさまざまなな要素が絡んでくるので、すべてをここで書ききることはできませんが、一言でいえば「日本のほうが、私らしく、楽しく暮らせる気がする」ということです。
「自国」というこの上ない気楽さ
母国語で事が済み、色んなことに対する勝手がわかっている。ドイツに住んでみて、そんな当たり前のことがいかに特別なことなのかがわかりました。
日本人がドイツに住めば「移民」になります。ホロコーストに対する強烈な反省もあって、ドイツは露骨な人種差別が少ない国だとは思いますが、それでも、よそ者はよそ者。
「外国人」としてドイツに暮らして外国人局と渡り合い、「移民」という立場の厳しさを実感することもありました。
それに比べ、自分がビザもなにも必要なく、生まれたときから当たり前にそこにいられる「母国」ってなんてありがたい存在なんでしょう。
単に「母国のほうがラクだから日本がいい」という話ではありませんが、私には日本が、もっといえばアジアが合っていると思います。
離れてみてむしろドイツが好きに
住んでいるときはドイツに対して複雑な感情をもっていた私ですが、しばらく離れてみて、以前よりもドイツが好きになったような気がします。
ドイツの旧市街は文句なしの美しさですし、街と街のあいだに広がる畑や森、いわば「バッファゾーン」の風景も心を打ちます。ドイツのワインは個性豊かで安くておいしいですし、オーガニックコスメも最高。
「在住者」となると色々とややこしい問題も出てきますが、いち旅行者として見ればドイツは魅力あふれる国で、私自身、まだまだドイツで行きたいところ・したいことがあります。
人間関係で「適度な距離を置いたほうがうまくいく」ということはよくありますが、国との付き合いでもそうなのですね。
日本人でも、日本が合う人もいれば、ドイツのほうが合う人もいます。それは単に相性の問題であって、日本とドイツどちらがいい・悪いという話ではありません。
私の場合は、日本に住んでときどきドイツを訪ねていくのがベストな関係性なのでしょう。「今度ドイツに行ったら、本格的なラインの古城ホテルに泊まるぞ」と今から妄想しています。