フリーランスのあなたは「国民健康保険料(国保)高いよ~!」と悩んでいませんか?自治体(市区町村)が運営する国民健康保険は、収入が多ければ多いほど保険料が高くなる仕組みになっていて、所得や年齢によっては最高で年間100万円前後になる場合があります。
月で割ってみると1ヵ月あたり8万円以上…!とんでもない負担ですよね。健康で持病のない人であれば、保険料を払うよりも10割自己負担で病院に行ったほうがはるかに安上がりなので、「なんとか保険料を安くする方法はないだろうか」と考えるのも当然。
実は、フリーランスのクリエイターの場合、加入基準を満たせば自治体の国民健康保険よりも安い保険制度が使えることがあるのです。それが、「文芸美術国保(文美国保)」。
フリーランスライターの私は文芸美術国保に加入することにより、大幅に月々の保険料を削減することに成功しました。意外と知られていない文芸美術国保の制度や加入方法についてご紹介します。
文芸美術国保(文美国保)とは?
文芸美術国保(正式名称:「文芸美術国民健康保険組合」)は、文芸・美術および著作活動に携わっているフリーランス(個人事業主)が加入できる健康保険。
「文芸・美術および著作活動」というと、なんだか高尚な感じがしますが、デザイナー、フォトグラファー、イラストレーター、ライターなど、意外にも幅広い職種が対象となります。
文芸美術国保に加入するメリットは、所得にかかわらず保険料が一律だということ。自治体が運営する国民健康保険は所得に応じて保険料が上がりますが、文芸美術国保の場合は年間所得が100万円でも1000万円でも保険料は変わりません。
つまり、所得が多い人ほど文芸美術国保に加入するメリットが大きくなるのです。
文芸美術国保の保険料
文芸美術国保の2021年度の保険料は下記の通り。年によって変動があり、2019年は19,600円だったようなので、少しずつ上がっているようです。
- 組合員:1人月額21,100円(内訳:医療分 16,400円、後期高齢者支援金分 4,700円)
※扶養家族がいない40歳未満の方が1人で加入する場合、上記の21,100円が月々の保険料となります。 - 組合員の家族:1人月額11,600円(内訳:医療分 6,900円、後期高齢者支援金分 4,700円)
- 介護保険料(満40歳から64歳までの被保険者が対象):1人月額 5,200円
所得がいくら以上で文芸美術国保がお得になる?
自治体の国民健康保険の保険料は、居住地によっても異なるため、一概に「所得が○○円以上だったら文芸美術国保に切り替えたほうが安くなる」ということはできません。
ただし、FREENANCE MAGに下記のような記載があります。
大まかな目安を出すと「税引き・所得控除後の総所得が200万円前後、もしくは200万円以下」だと、国民健康保険の方が負担が軽くなる可能性が高くなります。(FREENANCE MAGより引用)
したがって、所得(売上から経費や税金、その他控除を引いた金額)が200万円を大幅に超えるようであれば、自治体の国保よりも文芸美術国保のほうがお得になるといえそうです。
文芸美術国保の加入条件
文芸美術国保の加入条件はおもに2つ。そのひとつが、前述の通り、文芸・美術および著作活動に携わっているフリーランス(個人事業主)であることです。要するに、会社を起こして法人化している人は加入できません。
文芸美術国保の加入あたっては審査があり、「文芸・美術および著作活動に携わっている実態があるか」をチェックされます。
加入審査は、文芸美術国保の申込書の記載内容と前年度の確定申告書を基に行われ、「文芸・美術および著作活動に従事していると判断できない」あるいは「文芸・美術および著作活動以外が本業である」とみなされた場合には、加入申請が通らない場合もあるようです。
例えば、「文筆業」と申告していながら、講演やコンサルティングといった文芸・美術および著作以外の活動や業務や収入のほとんどを占めているような場合です。明確な審査基準は公表されていませんが、文芸美術国保の審査に落ちた方のブログ等を見る限り、確定申告書に記載されている職種が判断要素のひとつとなっているようです。
2つ目の加入条件が、文芸美術国保への加入をあっせんしている団体の会員になることです。
ただし、「文芸・美術および著作活動に携わっている」というひとつ目の条件を満たしていることが大前提。文芸美術国保の加盟団体の会員になったら自動的に文芸美術国保に加入できるわけではなく、審査で「文芸・美術および著作活動に携わっている」と認められなければ文芸美術国保には加入できません。
対象となる加盟団体については次で詳しく解説します。
文芸美術国保に加盟している団体
「文芸美術国保に切り替えたほうが保険料が安くなりそうだから入りたい!」そう思ったら、まずは文芸美術国保への加入をあっせんしている団体の会員になる必要があります。
文芸美術国保に加盟している団体は70ほどあり、この記事を見てくださっている方に関係のありそうなものを挙げておきます(全リストはこちら)。
- ジャパン デザイン プロデューサーズ ユニオン
- 全日本書文化振興連盟
- 著作家健保会
- 東京イラストレーターズ・ソサエティ
- 東京グラフィックデザイナーズクラブ
- 東京コピーライターズクラブ
- 日本アニメーション協会
- 日本アニメーター・演出協会
- 日本イラストレーション協会
- 日本インダストリアルデザイン協会
- 日本インテリアコーディネーター協会
- 日本インテリアデザイナー協会
- 日本インテリアプランナー協会
- 日本エッセイスト・クラブ
- (公社)日本グラフィックデザイナー協会
- 日本写真家協会
- 日本写真作家協会
- 日本デザイン書道作家協会
- 日本デジタルライターズ協会
- 日本ネットクリエイター協会(←webライターにおすすめ)
- 日本文芸家協会
加入対象者の多そうな団体から、かなりマニアックな団体までさまざま。webライターとして活動している私は、「日本ネットクリエイター協会」経由で文芸美術国保に加入しました。
一見「日本デジタルライターズ協会」にも加入できそうですが、「日本デジタルライターズ協会」はIT分野で執筆や編集を行っているフリーランスが対象で、かつ既存会員の推薦が必要になるため「日本ネットクリエイター協会」に比べると門戸が狭くなります。
団体によって入会金や年会費の額が異なるほか、一部の団体は加入に既存会員の推薦が必要なことも。まずは加盟団体の情報収集をして、自分に合った団体を見つけることが肝心ですね。
「日本ネットクリエイター協会」の概要・年会費等
ここで、私も会員になっている「日本ネットクリエイター協会」について、もう少し詳しくお話します。
「日本ネットクリエイター協会」は、その名の通り、ネットをおもな舞台として活動しているクリエイターが加入できる協会です。入会資格は下記の通り。
入会資格
- 音楽・映像・文筆を問わず、著作物の制作もしくは、音楽原盤・動画原盤の制作を行っている方。
- 上記のような創作活動において、日本国内で収益をあげている方。
- 上記1.2を満たす日本国籍を有している方。
「日本ネットクリエイター協会」の入会金・年会費は下記の通りです。
入会金・年会費
- 入会金:10,000円
- 年会費:24,000円
繰り返しになりますが、「日本ネットクリエイター協会」の会員になったからといって、必ずしも文芸美術国保に加入できるとは限りません。
入会後の入会金や年会費の返金はできないそうなので、加入にあたって不安要素のある方は、事前に文芸美術国保に問い合わせてから、「日本ネットクリエイター協会」への加入申請を行うといいでしょう。
私自身、電話でいくつか文芸美術国保に質問をして、「おそらく大丈夫だろう」と感じたので「日本ネットクリエイター協会」に加入申請をしました。
文芸美術国保への加入手続き
文芸美術国保に加盟している団体に加入を申請し、文芸美術国保入会のあっせんを希望すると、団体の加入申込書に加え、文芸美術国保加入に必要な書類が送られてきます。
「日本ネットクリエイター協会」の場合は、下記の書類がまとめて送られてきました。
「日本ネットクリエイター協会」加入に必要なもの
- 「日本ネットクリエイター協会」加入申込書
- 「日本ネットクリエイター協会」年会費の口座振替依頼書
文芸美術国保加入に必要なもの
- 世帯全員の住民票(発行後3ヵ月以内)
- 前年度の確定申告書B(控)の写し
- 文芸美術国保の加入申込書
- 文芸美術国保の保険料の口座振替依頼書
- 作品例
基本的に、どの団体でも文芸美術国保加入に必要な書類は共通と思われます。文芸美術国保加入に必要な書類は、加盟した団体にまとめて郵送します。「作品例」については、私の場合、執筆した記事のURLを記載したポートフォリオを印刷して提出しました。
また、私の場合前年度は会社員だったという特殊事情があったため、ワードで別紙を作成し、現在のクライアントやクライアントごとの月の仕事量や収入、想定年間所得などをまとめて記載しました。
文芸美術国保加入にあたり、提出必須の資料は当然用意する必要がありますが、補足資料を提出してはならないということはありません。
私が提出した別紙に実際どの程度の効果があったかはわかりませんが、何らかの不安要素がある方は、最低限必要な書類に加え、別途補足資料を提出してもいいのではないでしょうか。
文芸美術国保の加入にはどれくらい時間がかかる?
文芸美術国保の加入にはけっこうなリードタイムがかかります。文芸美術国保の審査は「毎月5日受付締め切り、審査に通過すれば翌月1日付加入」となっているためです。
私の場合、7月20日に加入に必要な書類を発送し、9月1日付で文芸美術国保加入となりました。加入申請から加入までは、おおむね25日~55日程度かかる計算になります。
文芸美術国保に切り替えた節約効果
事前に文芸美術国保に問い合わせ、「大丈夫そうだ」という感触を得てから加入申請をしたものの、実際に保険証が届くまではドキドキでした。8月末に文芸美術国保の保険証(資格取得日:9月1日)が届き、晴れて文芸美術国保の組合員になりました。
ここで自治体の国民健康保険から文芸美術国保に切り替えたことでどのくらいの節約効果があったのか、計算してみたいと思います。
自治体の国民健康保険は所得や居住地等によって保険料が大きく異なるため、あくまでも私の場合です。参考程度にご覧ください。
自治体の国保
※自治体の国保は年間の保険料を10回に分けて払う仕組みです。「年額=1回の支払額×10」ではありませんのでご注意。
文芸美術国保
2年目以降は団体の入会金がかからないため、ランニングコストが少し下がります。自治体の国保の保険料と差し引きしてみると、初年度で155,800円の節約、2年目以降は165,800円の節約になる計算です。1年で15万円超はデカい…!
文芸美術国保の加入手続きは結構面倒ですが、保険を切り替えるだけでこれほどの節約効果があるなら、申請しない手はないですよね。
文芸美術国保に加入したら自治体の国保はどうなる?
文芸美術国保に加入したら、自治体の国民健康保険の資格喪失の手続きをする必要があります。
「文芸美術国保の加入申請をしてから保険証が届くまでの期間はどうなるの?」と気になるところですが、結論からいうと文芸美術国保に加入申請をした後も、実際に文芸美術国保の組合員としての資格を得るまでは自治体の国保の保険料を払い続ける必要があります。
現在自治体の国保に加入している場合は、加入期限までに保険料をすべて支払い、もし払いすぎていた保険料がある場合は、文芸美術国保の組合員資格を得て、自治体の国保を脱退した後に還付されるという流れです。
は、文芸美術国保に加入申請をしたのが7月、加入資格を得たのが9月だったので、文芸美術国保加入申請後も、7月と8月の自治体の国保(計8万円以上)を払わなければなりませんでした。もっとスムーズに加入資格が得られるといいのですが…
文芸美術国保加入に関するQ&A
文芸美術国保の加入に関しては、文芸美術国保のホームページに載っている以外、ネット上にもあまり情報がありません。そこで、私が独自に調べてわかったことや、文芸美術国保に問い合わせてわかったことをまとめました。
ただし、加入審査はあくまで「総合的な判断」となるため、「こうであれば絶対通る」「こうであれば絶対NG」という明確な基準はありません。
おわりに
国保の負担が大きくなりがちなフリーランスにとって、文芸美術国保はとてもありがたい制度。しかしその割にその存在があまり知られていないのは、ちょっと残念な気がします。
一部では「文芸美術国保は審査が厳しい」という評判もあるようですが、実際に申請してみた感触では、「著作活動に従事している実態があるかどうかをちゃんと確認している」という感じでしょうか。
自治体の国保が高くで困っているフリーランスの方は、ぜひ一度文芸美術国保への加入を検討してみてください。